5-18.昭和10年・竹岡海水浴場 5   ・ 


これらの写真に混じって、【上総竹岡名所海岸の絵葉書】というものも出てきました。

この竹岡に泊まった時に買ったようですが、絵葉書には、《昭和7年東京湾要塞司令部 地乙第三九号許可済》
との印がありますので、昭和7年以前の竹岡海水浴場を写した景色を絵葉書にした事になります。


先の《逗子二十景の絵葉書》にも、この《東京湾要塞司令部》の許可済印が押されていましたが、これは明治の日清戦争の開戦の際に、東京湾の防衛の為に設けられた要塞を管理する司令部の事です。

当時の帝都東京を、万が一の攻撃から守る為、城ヶ島から横須賀にかけての三浦半島と、館山から富津までの内房を中心に要塞が作られ、その後明治から終戦まで半世紀以上も続いた司令部です。

こうした防衛は、幕末のペリー艦隊来航以来の事で、現在人気スポットのお台場も、ペリーの脅威と江戸防衛の為急ピッチで作られた砲台です。
事実、翌年の再来航の際は、お台場の砲台のおかげで、いったん江戸に接近したペリー一行も、横浜まで引き返しています。
もっともお台場は、その後の東京湾要塞が出来た事で、台場としての必要性が失われ、民間に払い下げられて行きます。

一方東京湾の要塞だった第一海保や第二海保は現在も残っていますが、この竹岡を含む富津一帯も、明治後期に東京湾要塞地帯とされ、軍の機密を守る為、測量や撮影などは、司令部の許可が必要だったようです。

その為こうした絵葉書などは、必ず要塞司令部の許可印がなければ発行も出来なかったそうです。
このような絵葉書ですが、これらからも当時の賑やかな竹岡海岸が見られます。


右の上の1枚目は、舟の横で帽子を被って休んでいるご婦人の姿が見えますが、服装は水着ではなく和服のようです。
横に立つ女の子も見えますが、被っている帽子が水玉模様で可愛いですね。
この頃は夏の行楽と言ったら海が定番となっており、水着や帽子、パラソルなど高価ながらも人気だったようです。

次の2枚目は竹岡海水浴場の全景ですが、岩場の向こうの海の中には、この頃の海水浴場の特徴である、高い飛び込み台も見えます。
よく見ると、同じ飛び込み台でも《外房の飛び込み台》とは形が違うようです。
地域によって形はさまざまだったと思われます、同じなのは、とにかく人がたくさん登っていえう点です!
一方岩場ではたらい舟に乗ろうとする姿なども写っていますが、当然なのか足元は裸足です!
3枚目は海岸線で、下は同じ場所の現在を撮ったものですが、湾の形や山の形など、新旧同じに見えます。
さすがに砂浜の向こうの茅葺屋根はなくなり、新しい屋根になっていますが、海沿いの集落の形は、今も昔も変わらないようです。





右は昭和初期の絵葉書に写る山と、現在山ですが、山の形は今も昔も変わりませんね。
変わったのは、湾の外に堤防が長く延び、砂浜には多くのテトラポットが置かれたことでしょうか?

尚、絵葉書に写るこの山に、前述の十二天神社が祭られ、山頂には城が築かれていた山で、その名も文字通り《城山》という山です。
更に幕末には砲台が置かれた所で、こうした頃からも東京湾要塞と指定されたのでしょう。

写真を見ても、確かに東京湾を見渡せるような場所です。

こうした一連の絵葉書も、地元の方々に見て頂きましたが、皆さん一様に懐かしがられ、

『これはあそこだ!』
『こっちは津浜だ!』

と竹岡海岸の様子や、隣の津浜海岸であるという事を教えて頂きました。

海岸近くにも民家が随分と建っていますが、夏が来るとこうした民家の母屋は、【海の家・貸家】として貸し出し、自分達は納屋等で生活をしていたそうですが、ある農作業の伯父さんは、

『いや〜あれは夏の良い稼ぎだったな〜』

とも話をしてくれました。

古い写真を元に訪ねた竹岡でしたが、当時の様子が残っていたり、様変わりしたりして、まさに新旧入り混じった感じでしたが、地元の方々は皆さん良い方ばかりでした。



そして帰りになにやら良い匂いがしたため、匂いに釣られて入ったのが、【梅の家】というラーメン屋さんです。
店内は満員の混み具合で、表には列も出来ていましたが、周りを見渡しながら注文したのが、写真のような黒いスープに麺が見えない程の厚いチャーシューが敷き詰められたチャーシュー麺¥600です。

後で判ったのですが、《竹岡式ラーメン》と言われる程のラーメン屋さんで、行列のできるラーメン屋さんとしてもかなり有名なお店だそうです。

見た目が濃く、食べても濃い醤油ベースのラーメンは、好き嫌いがあるとは思いますが、かなりインパクトの強いラーメンでした。

でも何故か惹かれてしまい、次に竹岡に寄った時に、またまた入ってしまいました。

それにしても、古い写真は色々なものと出会いを作ってくれます!
         

竹岡ラーメンの梅乃屋

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